「駆血に関する文献等調査」

駆血とは、皮膚上からカフ等で血流を止めることで、最も卑近な例は血圧測定時、カフ(またはマンセット)内の空気袋を膨張させ、動脈の流れを止めることである。諸外国ではremote ischemic conditioning(遠隔虚血状態)、またはpreconditioning(前状態)といっている。1990年の初め頃から動物実験等で、心筋梗塞に関する治療実験が行われており、以下にそれらに関する文献、日本における実施資料について記した。

1) Przyklenk et al;「Regional ischemic preconditioning protects coronary occlusion 」、Circulation: 1993,87:893-899 麻酔犬を用いて、5分間、回旋枝冠動脈の閉塞のpreconditioningで、コントロールに比して心筋梗塞のサイズを著しく減少させることを示した。

2) Birnbaum et al;「ischemic preconditioning at distance reduction of myocardial infarct size by parcel reduction of blood supply combined with rapid stimulation of gastrocnemius muscle in the rabbit」、Circulation: 1997,96:1641-1646 ウサギを用いて、一次的な四肢の虚血が、心臓虚血を遠隔的にpreconditioning することが出来ることを初めて報告した。これは骨格筋の酸素需要供給バランスを変えることによって、心筋を保護することを示した。

3) Kharbanada RK et al; 「Transient limb ischemia induces remote ischemic preconditioning in vivo」、Circulation 2002,106: 2881-2883 豚の下肢で、5分間4サイクルの虚血によって、実験的に拡大させた心筋梗塞のサイズを減少させることを示した。

4) Hool et al;「Cardiac remote ischemic preconditioning in coronary stenting (clip sent)study: a prospective randomized control trial」;Circulation: 2009 ,119: 820-827 上腕部を200mmHgまで血圧測定用カフで圧迫し、5分間維持、5分間潅流の3セットをした結果、24時間トロポニン1濃度をコントロールと比較した。 コントロール患者では0.16ng/mlに対し、preconditioning患者では0.06ng/mlに減少した。

5) Aliza et al;「remote ischemic preconditioning reduces myocardial and renal injury after elective abdominal aortic aneurysm repair: a randomized controlled trial」;Circulation ,2007,116(suppl):1-98-1-105 腹部大動脈瘤修復を受けた患者に対して、遠隔虚血preconditioningが心筋と腎臓、両方の損傷を減少させることを、患者82名を無作為にpreconditioning を受けた者と、従来の修復術を受けた者とに分けて比較した。preconditioning 群は、心筋損傷の発生率が27%まで減少させた。心筋梗塞の発生率も22%減少、腎臓の損傷を23%減少させた。

6) Kloner et al;「Clinical application of remote ischemic preconditioning 」 Circulation ,2009,119:776-778 過去の遠隔虚血preconditioning に関する諸文献から、そのメカニズムについて解説したものである。その結果の要約は下記に示すとおりである。

(1)  体液性物質の分泌

・アデノシン及びブラジキン(強力な冠状血管拡張作用をもたらす)
・エリスロポエチン(赤血球生成をたかめる)
・一酸化窒素(平滑筋を弛緩させ動脈を拡張させ血流を増加させる)
(2)  カテコルアミン、または交感神経の刺激により心臓の保護を導く
(筋肉内の毛細血管を拡張させ、筋肉内の血流増加)
(3)  腸間膜動脈血行制限及び神経インパルス伝道路の形成がある。
以上の結論として、血圧計カフを用い上腕の血流停止、潅流を繰り返すpreconditioning は、虚血性心筋壊死部位の範囲を減少させる効果的な方法である。

7) Sloth et al; 「Improved long –term clinical outcomes in patient with ST-elevation myocardial infarction undergoing remote ischemic conditioning as an adjunct to primary percutaneous coronary intervention」;Eur heart journal ,2014, 35(3): 168-175 心筋梗塞で救急病院に搬送中、患者の上腕を血圧計カフで200mmHg加圧5分間、除圧5分間を4回実施した患者166名と、実施しない患者167名を、2007年から2008年にかけて実施(病院搬送後、患者全員に経皮的心臓治療処置)し、その後、約4年間デンマーク全国医療記録から追跡調査を行った。主要な心臓及び脳血管異常(MACCE)は17(13.5%)に対して、コントロール群は32(25.6%)であった。結論として、初期経皮的治療前の遠隔虚血conditioningは、ST-上昇心筋梗塞患者の長期期間の臨床結果を改善する。

8) Eric Botker;「Blood pressure cuff may save life in patients with acute heart  attack」Public release date :20-Sept-2013 文献7の333名中、研究条件を満たさない患者を排除し、心疾患で搬送中の患者251名で、血圧計カフで5分間加圧、5分間除圧を4回繰り返す処置をした群と、しないコントロール群との比較で、約4年間、追跡調査の結果、遠隔虚血conditioning 処置群はコントロール群に比して、その後、心臓症状の発生率を51%減少させ、死亡率を61%減少させた。この原因は、身体のある部分を酸素不足状態にすることにより、内因性の防護システムが賦活されるためと考えられる。

9) 整形外科病院での治療実績(2013年末現在) 日本で開発されたVRC駆血装置(10秒以内に駆血状態にし、脈動表示装置[特許出願中]で駆血を判定)を用いて整形外科的疾患の駆血治療を約1,000名以上実施した結果、痛み、腫脹の消退する時期が早くなり、骨折や捻挫の治療期間が20%~40%短くなる。この理由は、血流増加と血管拡張が外傷(患部は血流障害発生)の治癒を早めているためである。ふく田整形外科病院では、出来るだけ短時間で駆血状態になるよう、急速にカフの圧を上げている。長時間かけてカフ圧を上げると、うっ血状態の時間が長くなり出血や浮腫が発生する。駆血時間、解放時間及び回数は患者の状態で設定されている。

10)整形外科病院提供 (2013年) 駆血前、駆血中、駆血後の下肢の血行状態 fuku